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模写、トレース、模倣、贋作、盗作、オマージュ、そしてエチュード(習作)とタブロー(本作)


「L.H.O.O.Q 」 マルセル・デュシャン (1919年)




イラストレーターの生徒さんから模倣について相談され、曖昧さを起こさない為に意味の違いをしっかりお伝えさせて頂く事にしました。





まず、言葉の整理から始めます。その言葉が指す意味と意図をしっかり理解しておきます。


「模写」

模写とは、ある作品を元に出来る限り忠実に作品を写し描き、同じように完成させる事を模写と言います。

模写を行う意図は、参考にする作品の作風を学ぶことや描画手順、方法など完成に向かうまでの技術を学ぶ事に意味を置いています。

美大などのアカデミックな場でも授業の一環として行いますし、技法を学ぶ際の良い教材として絵画教室などの私塾も行います。


「トレース」

トレースとは、元にする素材を複製する事を指します。半透明のトレーシングペーパーを使い、複製する画の上に敷き扱い浮き上がった画の稜線をなぞり形を複製します。

油彩の場合キャンバスが痛む為、直接下絵をキャンバスに描きません。下絵を別の紙に描きその下絵をトレースし複製を作りキャンバスに転写します。

しかしこれは自分の作品に対して行う行為であって、他者の作品をトレースする場合は何故トレース(複製)を行うのか明確な目的を持って行わなければなりません。他人の作品の全部もしくは一部をトレースし製作者に許可を取らずに第三者に販売した場合は犯罪になります。


「模倣」

方法や行動を真似て同じように作品を作る事を指します。

例えばゴッホの画風を真似てタッチやデフォルメを行い、ゴッホ風な作品を描いた画は模倣作品とされます。


「贋作(偽作)」

元とする製作者の作品を、他人が全く同じように模写し、その作品をオリジナルの作者の作品であるかのように流通してる事を指します。贋作は偽作を指し、真作はオリジナルを指します。


「盗作」

他人の作品の一部または全部を盗用し、自分のものとして表現している事を指します。盗作はオマージュとは違い、故意にオリジナルを隠そうとした隠蔽も見えます。


「オマージュ=リスペクト」

オリジナルの作品の一部もしくは文脈を汲み、作品を制作する。オマージュはオリジナル作品に対する尊敬であって、必ずポジティブでネガティブなアンチ行為ではない。

作品は誰が見てもオマージュだと理解でき、もしくは口頭や文章で明文化してオリジナル作品の名を刻んだり作者に捧げを述べている事が多いです。


「習作(エチュード)」

本作(タブロー)に向かうべく為の練習作品。エスキース(下絵・要素)ではなく、しっかりした作品として制作しているが、本作の為の練習作として存在した作品を指します。

構成要素としてのコンポジションも習作の一つとして捉えられる場合もある。


「本作(タブロー)」

何枚もの習作を行い導いた結果の作品、最終作品を指します。






アートの世界での盗作の概念と、イラスト(漫画)の世界での盗作の解釈は、厳密には同じなのですが表面的に浮かんで見える部分が違って見えているかもしれません。


上の作品を例にとると、デュシャンの「L.H.O.O.Q 」ですが、盗作のようであって盗作ではありません。

この「L.H.O.O.Q 」はデュシャンが自ら真作を丁寧に模写し描き、髭を付け加えた作品では無く、販売されていたポストカードに髭を付け加え「L.H.O.O.Q 」という作品名を付け加えたレディメイド作品です。


これだけを聞くと意味がわからないと思いますが、文脈としてこの前の作品に男性便器を作品にした「泉」(art theory1掲載)があり、レディメイド作品の流れを汲んでいます。

レディメイドReady-madeとは既製品という意味で、誰かが既に制作販売している物を指します。その逆がオーダーメイドordermade、受注生産です。


このレディメイド作品は美術家の一方向的な解釈に対してのアンチテーゼ作品です。

芸術家が作品を制作するにあたり、今までのアカデミックなそして伝統的な考えや技術をなぞり、そして繰り返す沢山の習作とその過程で培った経験を駆使し制作するその先に、ゴールのような価値が存在すると考え制作活動を行います。デュシャンは、その一方向的な道順でしか美術の価値を見ていない事に対するアンチテーゼとして、自らが手を下さずとも美術的価値を生むことができると証明した作品がレディメイド作品群です。


価値観を変容させた事、そのものが作品であり、男性便器で無くとも、モナリザのポストカードで無くともこの作品の意図は成立していました。レディメイドであって、わかりやすく伝える事ができるアイコンとしてのモナリザを使い、センセーショナルな感情を揺さぶるものとして男性便器を使い注目度を高めただけだったのです。


盗作とは何を盗んでいるのか、あるいは盗もうとしているのかが問題です。デュシャンの「L.H.O.O.Q 」は盗用する事が目的ではありません。絵柄や色味や世界観を盗用する事が目的では無く、既製品に全く違う新しい価値を生む事が目的です。

モナリザという美術界の最も美しいとされる絵画、ルネサンスの最高傑作そしてマニエリスムの原型を作った美の完成形として確立した作品に落書きする事に意味があります。西洋古典絵画の金字塔として一方向に評価され続けた作品が、デュシャンのほんの少しの加筆によって更なる価値を生む事に成功しています。

その価値は先ほど述べた、一方向でしか価値が生まれないというわけではない事の証明です。




「コンパニオン」KAWS (2019)日本 by FASHIONPRESS



現存する現代アーティストでもパッと見た感じこれは盗用なのかオマージュなのか悩まれる方もおられるかもしれません。

KAWSはデュシャンまたはアンディウォーホールの文脈系統を汲んだ作家の一人で、代表作品の「コンパニオン」はミッキーマウスをデフォルメした作品です。他にもミシュランマンやシンプソンズを捩ったKIMPSONS、スヌーピー、エルモ、鉄腕アトムなどアイコニックなキャラクターを次々とKAWS作品へと変化させています。

ここでも疑問になる事が模倣や盗用なのか否かという事ですが、KAWS作品はデュシャンやアンディウォーホール同様、価値の再定義を目的としており、使用される既存のキャラクターはアイコニックな注目度を高める為のモチーフとして扱われているに過ぎません。またKAWSの作品はオリジナル作品から大きくデフォルメされている事もあり、オリジナルの要素を超える個性を加え変化させていますので、オリジナルそのものの価値はそこには存在しません。


KAWSはブランディング力も高く、自分の作品を多くのファッションブランドと提携し発表もしています。COMME des GARÇONS、ディオール、バレンシアガ、Supreme、Nike、A BATHING APE、ユニクロなど様々なファッションブランドとのコラボレーションも行い、アートの垣根を超え経済性の高い活動を行っています。

その昔80年代〜90年代初期に起こったシュミレーショニズムの運動時期に活動が活性化した人物がKAWSやNIGOであり、この時代の寵児は様々なジャンル、垣根を超えた活動を行う事にも長けています。彼らが育ったストリートカルチャーはどこまでを盗用とするのかあるいはその価値、モラルをどう定義するのか複雑になった時代でもあります。




さて、話題のイラストレーターはどうでしょうか?

盗用でしょうか、オマージュでしょうか。



オリジナルの作品を称え、そして自己の作品として販売する場合、許諾を得ているでしょうか。

本当にオリジナル作品を敬愛して入れば、自分のものとして販売することなどできないのではないでしょうか。



では問題となったトレース疑惑の背景に潜む弱さとはなんでしょうか。

美大を卒業した方は、美大生に至るまでに何十枚何百枚とデッサンを描きます。長い年月を得て培った技術力は一朝一夕では決して習得できません。何年間も地道に努力する事で獲得できる技術力です。ごく稀に何十枚とデッサンをせずとも稜線をしっかりと追える天才的なデッサン力を持った人もいますが、それは本当に稀な存在です。

昨今はデジタルで描く人も多いと思います。デジタルですと縮尺の変化やレイヤーによって透過させる事も容易です。そういった便利な道具が弱さを補うに至ったのかもしれません。肯定的な解釈をするならば、知識がまず足りなかったという事もあるかもしれません。どのように行えば問題になるのかをしっかり線引きできていないとデジタルは容易に弱い部分を補って解決してしまいます。

またしっかりとデッサンを行い、デッサン力を養っておけばこの問題も起こらなかったと思います。具象を作品にするのであれば、デフォルメや抽象化しないのであれば、必ずデッサン力は必要になります。


デッサン力は具象技術の根源だからです。

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